活動報告

2024.02.26

特別対談 小森たくお×山出保 「金沢の未来への提言」

金沢市長を5期務め、金沢21世紀美術館や金沢駅東口開発にかかわった山出保氏と語り合いました。

山出 保(やまで たもつ)

(プロフィール)
石川県中小企業団体中央会 名誉会長
金沢市出身。1990年より金沢市長を5期務め、全国市長会会長、石川県市長会会長などを歴任。2013年より石川県中小企業団体中央会会長。金沢市名誉市民。「金沢をデザインした市長」ともいわれる。『まちづくり都市 金沢(岩波新書)』など著書多数。

 

「新しい本物」を確立した歴史に残るまちづくり

小森:今回、対談させていただくのは、金沢市元市長の山出保さんです。本日は山出市政時代の貴重なお話を伺います。どうぞよろしくお願いします。

山出:どうぞよろしくお願いします。
小森:私が石川県庁で企画振興部長と総務部長を務めていた時から時折お会いさせていただきました。
北陸新幹線開通以降、金沢市民の皆さんも実感しているところですが、現在、世界中の方が金沢の素晴らしさと魅力を体感しにいらっしゃっている。21世紀美術館や金沢駅もてなしドーム、鼓門などその多くは山出市政時代に作られたものです。ご苦労などお聞かせください。
山出:21世紀美術館については、「歴史都市金沢に現代美術は似合わない」と反対意見が多くて「四面楚歌」の状況でした。美術館が作品を買うと「あんなガラクタを買って」と言われました。都市というのは多様な芸術や文化があってはじめて豊かになります。子供たちが同じ日に伝統文化の中心である石川県立美術館に行き、21世紀美術館で時代の先端芸術に触れられる。その幅を体感することは人格形成においても大切じゃないかと考えていました。
小森:実際に完成させるまでには知恵をいただいた方もいらっしゃるのでしょうか。どのようにして協力を取り付けたのでしょうか。
山出:議会からも「市の美術がそんなに重要か」と一時期批判もされましたが、21世紀美術館が開館してしばらく経った頃、偶然お会いした当時の県立美術館館長、嶋崎丞さんから「県と市で役割を分けてよかったね」と言われたんです。県と市が時代背景の異なる美術館を近い立地で持つことの意味を、時間を経て認めていただいたような気がしてホッとしました。
私は「自分の能力の限界を心得ている」と思っています。やはり謙虚でいなくてはならない。金沢は学園都市で大学がたくさんあり、知識人がたくさん集まっています。ですので、金沢駅のもてなしドームと鼓門は、金沢市文化ホールを設計された芦原義信先生が金沢大学、金沢工業大学、金沢美術工芸大学に声をかけてくださり、各大学のトップの方たちみんなで建築物の構造、設計や意匠を考えていただきました。私は参加させていただいただけです。
小森:今見ても度肝をぬかれるほど素晴らしいものをゼロから発想するのはすごいことだと感心します。歴史に沿いながら正統的かつ新しいことを融合して「本物の価値」を作り上げたのは、山出さんと金沢のまちの力ですね。
山出:新しいものを作ることと、奇をてらったものを作るのは違う。「本物とは何か」を、市民を巻き込んで議論しないといけないのです。その議論がきちんとできればまちの質が上がり「新しい本物」が生まれます。金沢でもまだこの議論が熟していないと感じているのでこれからの課題でしょう。
小森:金沢のような伝統のある市ですと、歴史に沿った正統的なものを踏まえつつも、でも同時に新しいことをやりたい。けれど、完成してみたら何か違う、ということもありますよね。この2つを融合して作り上げたことに意義がある。これがあったから新幹線金沢開業後の賑わいがあります。そして、茶屋街の重伝建地区、芸妓さんを守るように道を作ったのも素晴らしい功績であったと思います。
新幹線が通ってたくさんの人が来るけれど、油断すると他の観光地と同じようになってしまう恐れは常に持たなければいけません。でも金沢の生活文化は根がしっかりしているので大丈夫ではないかと私は楽観しているのですが、いかがですか?
山出:その通りですね。やはり商業資本主義に流されないことが大事。ぐっとこらえる。近江町市場でいえば、商品を良く見せたいばっかりに、店先の商品が乗った板をお客さんの方に向かって押し出すと、その分通路が狭くなる。すると「近江町市場は歩きにくくなったね。あんな所は嫌」となってしまう。金沢のまち全体のことを考えず、行儀の悪いことをしている人には「ダメだ」と言わなければいけない。
以前「金沢を観光都市と呼ばれたくない」と話したことがあるのですが、その後の反響が大きかった。市長をやっていると観光の負の側面がどうしても目につきます。その時は私は「自制の論理」という言葉を使い、まちの総合的な質を保つことが大切であると話しました。
小森:金沢の表層的な部分だけを見に来るのではなく、金沢には「本物」があるから来てもらえるというところに意味があるのですね。この考えは、今の、そして今後の市長さんにも受け継いで頂きたいですね。
山出:今、金沢で起こっている問題は、金沢駅から片町の間ですべての建物を一括りにして、高さ制限をしようとしていることです。その議論は慎重にしなくてはいけないと思いますよ。
小森:金沢駅前の都ホテル跡地は高度利用をした方が良い。利用ニーズはあると思いますし、金沢らしい特色を出す施設ができると良いです。一方で武蔵~片町のエリアでは、駅前とは別にそれぞれの町の状況に則してどうしたら良いか考えるのが良いでしょうね。
山出:メリハリが大事。建築家の谷口吉郎先生は、1960年代に片町~香林坊、武蔵の金融機関の建物が全て壊された時、当時の徳田市長に「なんとかならないか」と言って嘆かれました。これからは開発中心ではなく、保存重視のまちづくりをやらなくては、と。

やり遂げるためには国と県と市が歩調をあわせること

小森:これからの金沢の交通(バス、新交通)についてもお話させてください。交通基盤は都市のインフラであるから、優先して整備していかないと都市を成長させることができないと考えているのですが、市街地は道路幅の問題などの課題が多くあります。いかがお考えですか?
山出:本当に難しい。金沢のまちの古い雰囲気を残そうと思うと、壊すこともできない。お金もかかるから簡単にやろうとは言い切れない。時間がかかります。しかし環状道路を作ったということは新しい交通基盤に向けての準備だと思います。
小森:鼓門や21世紀美術館も、先を見通してやってきたと思いますが、金沢の都市としての格が上がって皆さんに喜んでもらえています。これからの知事さん、市長さんにも、将来の金沢の人たちを幸せにできる取り組みに果敢に挑んでいただきたいですね。国の支援も必要になってくると思うので、私も協力していきたいと思っています。

停滞せず、変化を楽しみ動き続ける知者であれ

小森:国会議員の私について、山出さんがこれから期待することはありますか?
山出:先日読んだ本に「知者は動き、仁者は静かなり」という論語の一節が書いてありました。小森先生は知者の立場だと思います。何のために動くかというと、やはり政治の安定、政治への信頼を取り戻すこと。そしてもう一つは何といっても石川の振興、発展をやらなければいけない。これからはこの2つに懸ける、ということではないでしょうか。小森先生は真面目に頑張っていらっしゃるので本当に誇らしい。また、ありがたい。
小森:良い言葉をいただきました。決してこれまでのやり方に安住することなく、世の中の環境や政治状況の変化に応じて、自分も変わっていかなければならないところは、変わりながら歩んでいこうと思います。

伸び代がある幸せなまち、金沢の未来を考える

山出:これからの金沢のまちづくりのポイントとしては、日本銀行の跡地の活用と、金沢駅から香林坊までの区間をどうするか、そして本多通りの二つだと思っています。
これまでずっと「コンベンションや学会が開ける施設がない」と言われ続けてきました。金沢で学会を開きたい人は多いのに、受け皿がない。その問題を一挙解決できるチャンスなのではないかと考えるのです。それにはまず、県と市がきちんと協議しないといけませんね。
小森:この問題はスポットで捉えるのではなく、金沢のコアな場所になりますから周りとの導線、繋がりを考えていかなければならないと思います。オーバーツーリズムの問題にしても、金沢は現在、点で人が集まっているので、まちなかの再開発は線で繋がるようにすることで、歩いて回れるエリアがもっと増えて回遊性が向上すると考えます。
山出:私は「金沢というのは幸せなまちだなあ」と思うんです。難しいけれど、課題がたくさんあるまちは幸せです。ひとつひとつ解決していけば、他に類をみない素晴らしい場所になります。
小森:新しい場所ができて、そこにまた新たな人の流れができ、地区ごとに統一感のある色付けができると魅力が増しますよね。
今日はすごく良いお言葉をたくさんいただきました。これから胸に刻んで頑張ってまいります。本日はありがとうございました。
山出:頑張ってください。応援しています。

2023年12月25日対談

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