対談

2024.09.14

対談:小森たくお×清水 雅楽乃

小森たくお勉強会「かがやき会」で講演いただいたアステナミネルヴァ株式会社 代表取締役社長 清水 雅楽乃(しみず うたの)氏との対談記事となります。 対談日:2024年9月14日 石川県政記念「しいのき迎賓館」にて

小森:今日は充実した対談にしていきたいと思います。よろしくお願いします。私も清水さんのプレゼンテーションを聞くのは初めてだったので、フレッシュな気持ちでお聞きしました。

いくつか「すごいな」と驚いたことがありました。一番最後に「外貨」というお話をされていましたけれど、アステナさんがすごいなと思ったのが、奥能登地域を、言ってみれば一つの国のように見立てて、どうやって輸出産業を作って外貨を持ってくるというようなことも含めて考えてらっしゃるのだということです。アステナミネルヴァ社という1つの企業がそこで成功するということだけでなくて、地域についても1つの国家の運営というか、国家の産業戦略みたいなことも含めて視野に入っていらっしゃるというのがすごいと思いました。やはり「ソーシャルインパクト」から発して考えておられるので、それが当然の帰結ということになるのでしょうか?

 

清水:そうですね。私たちがお手本にしたのが、北海道砂川市にある「SHIRO」というスキンケアのブランドです。砂川市という地方から、100億規模の企業を築かれました。地域の商材を使って、それを外に販売し、海外にも販路を広げています。化粧品やスキンケアというレッドオーシャンな市場において、若い男性などこれまでスキンケアを買わなかった人も買っている。それはすごいインパクトだなと思います。やはり少子高齢化が進む日本では、市場を広げるとか海外に販路を求めるなど、外に活路を見出さないと成長はないと思っています。

 

小森:すでにご存じかもしれませんが、聴衆の皆さんに少し補足・解説させていただくと、「インパクト投資」ということが何年か前から、世界で言われています。どういうことかというと、起業する人たちが、自分たちの事業の成功だけではなくて、例えば環境問題だとか、医療とか健康問題だとか、今必要とされている社会課題に挑み、それとともに、企業の産業としても成功していこうということを目指すことを「インパクト」と言っています。

私も実は、自民党の中で少しそれをかじっている仕事もしているのですけれども。そこで使っている言葉に「ゼブラ企業」という言葉があります。「ゼブラ」はシマウマのことなのですけれども、なぜそう呼ばれているかというと、それは白と黒の二つを持っている。企業としても成功するし、公や社会課題の解決にも貢献するという、その二つを狙っていくというものです。すごく志が高い一方で、でもかなり大変というか、普通に考えると、企業として成功するだけでも結構な苦労があるところに、それだけではなくて、公共分野も含めるという大変なことに挑むということです。ミネルヴァさんの場合は、珠洲や奥能登の地域の活性化ということに挑んでいるのだと思った次第です。

そして、私がすごく能登の可能性があるなと思ったのが、「ナイア」という新しいブランドを立てられたけれども、珠洲市の良いところをお金に変えていくのは、おそらくブランドの力の助けがいるということだと思います。これまでもそれぞれのところで皆さん頑張っていらっしゃるけれども、非常につつましくお金を稼いで、良いものを都会の値段に比べたら随分安く売って、生業が成り立たせることをやっておられます。先ほど清水さんが言われたように、域外にお金がどんどん流れていってしまっているのだとすると、外貨を稼ぎにいかなければいけません。そのためにはブランドの力が必要で、そこにアステナホールディングスといった、一流の企業が入ってきて、博報堂さんの力も借りながら、ブランドの力を入れていくというのは、石川県の中で内生的に活動するだけではなかなか得ることが難しいことではないかと思います。能登には良い素材がたくさんあると思うので、そこにブランドを持ち込んでくださっているのがすごいと思いました。

そこで質問しますが、どうして「ナイア」という名前なのですか?

 

清水:造語なのですけれど、能登の「N」、Naturalの「N」と、あと職人さんが作ったものというのにすごくこだわっているので、Artisanshipの「A」。「I」は、Inclusive、循環する。「サステナブルな地域を協創する」とミッションであげている意味のInclusiveというのを大切にしているので、その「I」。ここから先はどうしようかなとそこで考えて、何か語呂が良いので「A」があったらいいなと。「A」で、本物というAuthentic。やはり能登のものは本物のものだというのは、やはり土地に住むとすごくひしひしと実感するので、その「A」を使って「ナイア(NAIA)」にしました。

 

小森:日本語の語呂みたいなものはあるのですか。「ナイア」という響きは何か意味があるのですか?

 

清水:なんとなくナイアですね。なんとなく綺麗だなと。

 

小森:なんとなくナイア。なるほど。

今年(2024)5月にベータ版を出されたということですが、反響はいかがですか?

 

清水:反響は非常に良いです。スキンケアはやはり広告投資次第なのですが、まだベータ版なので投資はしていません。それでも外に出していないのに毎日買ってくださる方もいるのと、あとリピート率が今40%弱くらいなので、非常にこれは商品としてはリピート率が高いです。やはり能登ヒバを結構知らない方が全国でいらっしゃって、石川の人だと当たり前なのですけれど、青森ヒバは有名だけれど、ヒノキもだけれど、能登ヒバは知らないという方がいて、嗅ぐとすごく良いにおいで、スプレーも京都の診療所の方が買ってくださるなど、やはり可能性はすごく感じます。

 

小森2024年の5月ということで、能登半島地震が起きてからベータ版を出したわけですが、震災によって、事業や従業員の方や取引先の方などに、どんな影響がありましたか?

 

清水:大きくありました。ブランド自体を準備したのはもう2年前(20249月に対談)。酒粕はブランドのコア素材ですが、アルコールがすごく入っているので、スキンケア商品に加工するのに結構苦労をしました。そういった時間をかけた上で、本来であれば年明け(2024)1月にリリースしようとしていたのですけれども、地震が起きました。従業員は幸いにしてみんな無事だったのですけれど、皆、家族を帯同して帰京していました。地震後、社員の家は住めなくなりましたので、引越しをさせるとか、あとはそもそもの物流ルートが全部ストップしたので、商品配送ができないとか、あとは何より、私たちの仕入れ先の酒蔵さんが全壊してしまって、当時はもう廃業するとおっしゃっていました。今はもうお気持ちを復活されて再建に向けて動いていらっしゃるのですけれども、もうできないかなと初めは思いました。農家や伝統職人から生み出されるものを違う形に換えて次世代に継承していく、というのがブランドコンセプトなので、それが出来ないとなると、ブランドそのものが成り立たないので、もう一度やるとおっしゃっていただいた時は本当にうれしかったです。

 

小森:今の酒蔵のお話を聴いて、本当に良かったと思います。私も震災後、珠洲市も能登町もいろんなところを見ましたけれど、酒蔵がぺっちゃんこになってしまいました。十何年か前に酒蔵に行って、試飲させていただいたりだとか、お話を伺ったりだとかした酒蔵がありましたが、そこが本当にひどい被災をしていました。被災後、間もない頃には、今年は無理だし、廃業もしなければいけないみたいなお話があり、そうしたことに心を痛めていましたが、ナイアさんに救っていただいて、もう一回やっていただくというのは本当にありがたいなと思います。今のお話は仕入れ先のことだと思うのですけれども、生産設備というのは珠洲市にあるのですか?

 

清水:生産設備は金沢にございます。

 

小森:そうなのですね。では金沢は大丈夫だったのですか?

 

清水:私たちのグループ会社ではないところに金沢で作っていただいているんですけれども、そこは無傷でした。

 

小森:それで何とか5月にできるようになったのですね。

さて、先ほど、お仕事を発注するとか、雇用を生むということによって、地域に貢献していくというお話をされていましたけれども、数値化するのは難しいのかもしれませんけれど、どんな感じで効果が出てきていると思われますか?

 

清水:まだ本当にやり始めたばかりなので、これからなのですけれど、まさしくそういう数値化を出していきたいなと思っています。やはり企業が東京に集中しすぎといった背景は、やはり分散していくと、こういう効果があるのだよと出していかないと伝わらないし、結果、雇用だけではなくて、もっとここがあるから移住したいとおっしゃる方も、やはりリモートワークだけだと少し限界があるのだけれど、ここに行くとできるという拠点が日本中にやはり増えないと、やはりこの集中状況は変わりません。東京で暮らすのは苦しいところがいっぱいあるではないですか。賃金はあるけど、地価が高いとか。やはり地域の方が物はおいしいし、住みやすいといった良いところがいっぱいあるので、そういった会社がいっぱい増えるためにも、絶対に数値化はチャレンジしたいところですね。

 

小森:私も金沢に十何年か前に来て初めて暮らし始めた時に一番思ったことの一つは、やはりQOL、クオリティ・オブ・ライフが高いなということです。海でもスキー場でもゴルフ場でもどこかに遊びに行くのも1時間もあれば大体行けますし、食べ物もおいしい。私は石川県庁に勤めていましたが、県庁の職員さんも、かなり若い時分に県庁のそばなどに一軒家を構えていますが、東京で大きな会社のサラリーマンをしていても、なかなかそのようなことはできません。そうしたことを金沢や石川の人は実現していて、しかも、私が羨ましいなと思ったのは、金沢の人たちは、簡単に東京に遊びに行くことができるということです。新幹線ができたら新幹線ですぐに東京に行きましたし、能登空港もすぐなので、珠洲市からなら金沢の中心に来るのと銀座に行くのとそんなに変わらない時間で行くことができるので、時間や生活に余裕がある方たちはそういうことをやっています。私は東京で余裕がないサラリーマンをやっていて、週末は家でぐたーっとしていたのですけれど、金沢で余裕がある方たちは、新しいところ、六本木ヒルズができたとか何でも良いのですが、そうしたことがあると私が行くよりも先にそこにいらっしゃっていました。石川で質の高い生活を楽しみながら、かつ都会にもアクセスできるというのはすごいことなのだなと思っています。

一極集中とおっしゃいました。清水さんは大阪で育って東京に来られたということで、一極集中は直さなければいけないなと思ったのはいつからでしょうか?

 

清水:今のソーシャルインパクト事業をやってからですね。

 

小森:珠洲に来てからですか?

 

清水:珠洲に来てからです。やはり事業をやろうとすると良い素材はいっぱいあるから、ここでもきっと事業はでき得るなと感じたのですけれど、やはりプレイヤーが少ないので、結果、就職するのだったら、東京に行ったり、大阪に行ったりせざるを得ない。あと、私の友人たちですね。東京の友人たちでもほとんど子どもを産んでいないので、やはり経済的に厳しくて、実際、稼いでも少し大変という現状があるので、この少子高齢化の問題も、人口の問題も、あと、もっとQOLを日本全体で上げていくのも、やはり分散して住んでいくというのは必要だなと私の感想、実体験なのですけれども、そのように感じました。

 

小森:そうですね。私も、金沢に住んでから一層、一極集中を直していかなければいけないと思いましたが、それを都会の人にどうやってうまく伝えるのかというのが私たちの責任だと思います。夢のような話ですが、例えば、ミネルヴァさんがこれからさらに成功されて、その成功ぶりがテレビで取り上げられるなどして、こういうことがかっこいいのだなということが都会の方たちにも伝わっていくと、珠洲市以外でも様々な良いところがあるのだというようなことが広まっていく、そういうムーブメントが起きるといいなと思っています。

一方で、肌感覚としては、都会の若い方たちがIターンで例えば石川県に来て何か事業を始めるというのは、一昔前に比べて随分進んできたのではないかと思います。だんだん地方都市の持つ価値とか、あるいは都会の暮らしにくさとかが人々に響くような状況になってきたかと私自身は感じています。

先ほど、特区の話をされていました。例えば政府や県、市にどんなことをしてほしいですか?

 

清水:少し難しいのですけれど、イノベーションを起こすのは、日本ではすごく難しいなと思っています。これは、アステナグループの中でもそうで、私たちは3年で事業をリリースできて、これ以外にもいくつかやっているのですけれど、それは我々のグループの中だとすごく早いですね。そこそこの大企業で新規事業をスタートしてやり始めるのはすごく難しくて、なぜかというと、やはり、この基準に満たないとやったらいけないとか、こういう承認ルートを通さないとやってはいけないとか、やはりスピード感がどうしてもルールを守ると遅くなってしまうのですね。それが、珠洲に行くと、ある種の治外法権のような状態になりました。何かを生み出そうと思うと労働時間も長めになります。これが東京の事務所だと、働きたくても働けないといったケースもあります。珠洲でやることにより、ルールや規制がある程度緩和され、結果、スピーディーな商品開発につながったというのがありました。これがきっと国レベルでもそうで、イノベーションを創出するには、ある程度安全性や品質の基準を緩和しないといけないと思いますが、通常難しい。たとえば特区のようなものを作り、ここだけは緩和する、といった枠組みがもっと必要だと思います。

 

小森:私は、「ゼロリスク」ということは敵だと思っています。リスクをゼロにしようとすると、物事の進みは遅くなるし、ダイナミックな分野で勝つことができないと思います。

政府の中でもそういうこともありますが、それだけでもなく、例えば業界の団体だとか、あるいは大きな企業の中でもオーバーコンプライアンスになってしまう、ルール自身はそこまで求めているわけでも必ずしもないのだけれども、でも、ここで何か突っ込まれたら嫌だなということで、過剰に反応して、ますます安全、安全の側に偏ってしまう、動きが重くなってしまうということが、日本中で起きているのだと思います。何かあると炎上しやすい、叩かれやすい社会で活動しているのだとすると、それは一つの身の守り方だと思いますが、ただ、そのようなことをみんなでやっていると、身動きが取れなくなって、新しいこと、イノベーションが起きにくいということになってしまうので、それを何とか変えていきたいと思います。

全然違う質問をします。清水さんの名前の「雅楽乃(うたの)」さんは、どういう由来で雅楽乃さんと名付けられたのでしょか?

 

清水:父が、歴史がすごく好きでして、もうずっと歴史の本を読んでいて、考古学者になりたくてなれなかった人なのですけれど、彼が名前を付けるときに、音から取るという考え方をしています。

「うたの」というのは京都の地名で、京都の嵯峨の上の方に宇多野という地名がありまして、だいぶ昔からある地名で、そこに字を充てるという考え方をしました。長州藩士で、長井雅楽(ながい うた)という方がいらっしゃり、その雅楽が「うた」と読むのを当てた。妹はちなみに「真清(ますが)」といいまして、「ますが」も奈良に地名があって(真菅)、その地名から付ける。しかも、昔の日本の地名は音が綺麗なので、キラキラネームにならないように音が綺麗なものを、昔の古代に近いみたいなところを付けるというのを父がやりました。

 

小森:お父様のご趣味だったのですね。

 

清水:そうですね。父の趣味です。

 

小森:子どもの頃にはいかがでしたか?自分の名前は好きでしたか?嫌いでしたか?

 

清水:もうすごく嫌でして、やはり「えっ?」と言われるのと、あと、からかわれてオランウータンと言われるなど、からかわれたのがすごく多かったので、小さい小学校の時は特に嫌でしたね。

 

小森:途中からは好きになりましたか?

 

清水:途中からは好きになれました。

 

小森:素敵なお名前ですね。

 

清水:ありがとうございます。

 

小森:ナイアの話に戻りますけれども、今年5月にベータ版を出されて、来年にパッケージなども一新してリリースされるということですが、手応えはいかがですか?

 

清水:手応えは非常に良いと思っています。先ほどのリピート率が高いと言ったのもそうですし、あとは今のタイミングで買ってくださった方にいろいろな意見を聞いているのですけれど、すごく良いご評価を頂いています。もちろん、直さなければいけないところも頂くので、それも直しながら、まずお客さんの評判が良いということと、あと私たちがやらなければいけないのは、これは科学の会社としてなのですけれども、能登の酒粕や、あと米ぬかから米ぬかのエキスを抽出するとか、あと、能登の海洋深層水も、化粧水は全部海洋深層水でこれから作るのですけれども、そういった効果、効能をちゃんと科学的に検証するということをやっています。これが想像以上に非常に良くて、やはり酒粕の美容が入ってくる効果、効能だとか、あとは、海洋深層水一つとっても、取り方らしいのですけれど、沖縄よりももう少しミネラルをなぜか含んでいなくて、やはりミネラルを含むと加工がすごくしにくいのですけれど、そういった有利な点というか、いくつも分析結果として上がってきています。ナチュラルスキンケアの世界は、自然には優しいのだけれど、人には優しくないよねといったところが実際にあったりもして、あとは少しアレルギーを起こしやすかったりするとかがあるのですけれども、効果検証をしながら私たちの科学の力でそういった安定性や品質を高めることにすごく手応えを感じているので、良いものが来年に出せるのではないかなとは思っています。あとはもう本当にブランディングの世界です。

 

小森:今買ってくださっている方たちは、例えば能登を応援しようというような気持ちもある方もおられるのですか?

 

清水:はい、そうですね。特に初期ですね。5月にリリースしたタイミングでは。その前に、PRも兼ねてクラウドファンディングもしたのですけれども、そういった時に買ってくださった方は応援という気運で買ってくださいました。ただ、応援は通常だと1回で終わるので、そういった方々がリピートいただいているというのが今です。

 

小森:きっかけをいただいたということなのですね。

 

清水:そこからは頑張らなければいけないです。

 

小森:今日は私のような政治家の行う勉強会に来ていただきましたが、何か感想がありますか。

 

清水:感想というか、一緒に皆さんがいるように頑張らせてくださいということなのですけれども、やはり、もっと石川のポテンシャルみたいなものはすごく高いなと思っています。やはり、もっともっと経済的に豊かになっていくといったところが、結果、いろいろな課題解決につながっていくと思いますので、経済、経済、経済と言うと少しいやらしい感じはするのですけれども、やはりそこにこだわって、一緒に皆さんと地域を盛り上げていきたいなと思っています。

 

小森:せっかく珠洲に来ていただいて、これだけ外貨を稼ごうとなさっておられるので、是非、周りからもアステナミネルヴァさんを応援してもらえればと思います。

今日はどうもありがとうございました。

 

清水:ありがとうございました。

清水 雅楽乃しみず うたの

アステナミネルヴァ株式会社 代表取締役社長

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